※本記事は、日本時間2026年10月28日午前6時45分ごろまでに確認できた情報に基づく。議席数は主に出口調査による予測であり、確定結果ではない。後半のシナリオ確率は筆者の主観的な推定である。
2026年10月27日に投票が行われたイスラエル総選挙は、ネタニヤフ首相の続投にも、野党による政権交代にも、明確な道筋が見えない展開となっている。
主要テレビ3局の更新版出口調査では、ネタニヤフ支持陣営が50議席、ガディ・アイゼンコット氏を中心とする主要野党陣営が52議席、アラブ系政党が18議席。定数120のクネセトで、どちらの主要陣営も過半数の61議席に届かない見通しだ。
焦点は、各党の議席数に加え、選挙後にどの勢力が協力関係を築けるかに移っている。
高い投票率。ただし、出口調査と開票結果は別である
中央選挙委員会の発表として報じられた午後10時時点の投票率は77.7%、投票者数は約570万人だった。列に並んでいた人の投票が締め切り後も続いたため、これは最終値ではない。Times of Israelの選挙速報
注意したいのは、投票率と開票率の違いである。本記事の調査時点では、公式集計サイトから全国の開票率・各党の得票数を確認できていない。以下の数字は、開票済み票によって確定した議席数ではなく、出口調査による見通しとして読む必要がある。
| 勢力 | 主要3局の更新版出口調査 | 過半数まで |
|---|---|---|
| ネタニヤフ支持陣営 | 50議席 | 11議席不足 |
| アイゼンコット氏を中心とする主要野党陣営 | 52議席 | 9議席不足 |
| アラブ系政党 | 18議席 | — |
Kan、チャンネル12、チャンネル13は、現地午後11時11分までに陣営別予測がこの数字にそろった。一方、親ネタニヤフ系のチャンネル14は、同氏の陣営を60議席と予測している。調査間には大きな差があり、実際の開票による確認が欠かせない。更新速報、ロイターの開票夜報道
個別政党では、チャンネル12の出口調査でリクードが24議席、アイゼンコット氏のヤシャルが22議席。ネタニヤフ氏が率いるリクードは第1党となる見通しだが、最大政党の党首が自動的に首相になるわけではない。重要なのは、新政権の成立に必要な議会の支持を集められるかである。チャンネル12の出口調査
政権交代の鍵を握るアラブ系政党
主要野党とアラブ系政党を合わせれば、出口調査上は70議席となる。しかし、これをそのまま「政権交代勢力70議席」と考えることはできない。
主要なアラブ系勢力は、マンスール・アッバス氏のラアムと、ユセフ・ジャバリーン氏が代表を務める共同リストである。主にイスラエル国籍を持つアラブ系・パレスチナ系市民を代表する国内政党で、両者は異なる政治参加の戦略を取っている。
ラアムは、犯罪対策、住宅、教育、雇用などの改善を、連立交渉を通じて実現しようとする。2021年のベネット=ラピド政権に参加した実績もある。
共同リストは、生活格差の是正に加え、占領・入植への反対、パレスチナ国家樹立、平等な市民権を強く掲げる。正式な連立参加よりも、条件付きの閣外協力を想定している。ラアムの基本政策、共同リストの公式綱領
両勢力とも今回はネタニヤフ政権の交代を望んでいる。ただし、共同リストは、協力の条件に予算を伴う犯罪対策やパレスチナ国家への道筋を挙げており、主要野党への無条件の支持ではない。AFPの両党首インタビュー、共同リストの閣外協力方針
主要野党側にも壁がある。アイゼンコット氏自身が選挙前、アラブ系政党は自らの組閣条件を満たしていないとして、連立参加を否定している。政権交代を実現するには、双方がどこまで条件を調整できるかが問われる。アイゼンコット氏の組閣条件
3.25%の壁を巡る小党の動向
イスラエルでは、全国の有効票の3.25%以上を得た名簿が議席配分に参加する。基準を下回れば議席はゼロとなるため、当落線上の小党が議会全体の構図を変え得る。クネセトの制度説明
ラアムは7議席程度、共同リストは10~11議席程度という出口調査の予測で、現時点では両者とも基準通過の可能性が高い。
一方、特に注目されるのが、予備役兵・経済党とアムハ・イスラエルだ。両党は事前調査で基準付近を推移していたが、主要3局の出口調査では議席を得られない見通しとなっている。Kanの出口調査報道
両党の政治的位置も異なる。
アムハ・イスラエルのウィンター党首は、ネタニヤフ支持陣営に属すると表明している。軍務従事者への支援などを要求し、与党内で競合する立場だ。対して、ヘンデル氏らの予備役兵・経済党は、普遍的な軍務・国家奉仕を重視し、超正統派政党に依存する現与党連合への参加を拒んでいる。ただし、ネタニヤフ氏を含む幅広い政権まで排除してはいない。両党の連立への姿勢、ヘンデル氏のインタビュー転載
したがって、予備役兵・経済党が議席を得た場合、その議席を与党・野党のどちらかへ自動的に加えることはできない。
今後の政権を5つのシナリオで考える
以下は、2027年1月末までに今回の選挙を受けた最初の新政権が成立するか、どのような構成になるかについての主観的な推定である。期限までに新政権が成立しない場合は、暫定政権継続に分類する。
| シナリオ | 推定確率 | 主な条件 |
|---|---|---|
| 組閣難航・ネタニヤフ暫定政権継続 | 40% | 両陣営が協力相手への拒否姿勢を変えられない |
| 主要野党中心の政権交代・アラブ系政党が支援 | 35% | 連立参加、閣外協力、棄権などで合意する |
| ネタニヤフ氏が右派・宗教勢力中心の政権を再建 | 15% | 与党に有利な開票結果、または追加の協力者を確保する |
| ネタニヤフ氏を首相とする大連立 | 5% | 一部野党が選挙前の拒否姿勢を撤回する |
| ネタニヤフ氏以外を首相とする、リクードを含む大連立 | 5% | リクードの指導部交代などを経て合意する |
最多としたのは、組閣の膠着である。主要野党はアラブ系政党の支援なしでは過半数に届かない一方、その協力を受け入れる政治的な負担が大きい。
新政権の承認投票では、必ずしも61人の賛成が必要なわけではなく、賛成が反対を上回れば少数政権も成立し得る。アラブ系政党の棄権による政権交代も制度上は可能だ。ただし、その協力を主要野党が受け入れるかが問題となる。
組閣が失敗して再選挙へ向かえば、ネタニヤフ氏は暫定首相として残る。選挙で現与党陣営が過半数を失うことと、同氏が直ちに首相を退くことは、別の問題なのである。組閣手続きの解説
政権交代は、中東の緊張緩和につながるのか
地域への影響は、今後6~12か月を念頭に考えたい。ここでは、組閣中に大規模な奇襲や米・イラン間の全面的な戦闘再開が起きず、米国が外交的関与を続けると仮定する。
| 政権シナリオ | 地域の不安定さについての見立て |
|---|---|
| 暫定政権継続 | 政治的な合意が進みにくく、高い不安定さが続く |
| 野党政権+アラブ系の支援 | 西岸の暴力抑制や外交協調で、小幅な改善余地 |
| 右派・宗教政権再建 | 入植・併合圧力が強まる場合、悪化の危険が最も大きい |
| ネタニヤフ氏の大連立 | 極右への依存が減れば改善余地。ただし軍事行動への支持も広がり得る |
| ネタニヤフ氏以外の大連立 | 外交・行政の予測可能性が高まり、緩やかな改善余地 |
重要なのは、ネタニヤフ氏とアイゼンコット氏が、安全保障の基本方針をかなり共有している点である。両者ともパレスチナ国家樹立に反対し、ガザではハマスの武装解除まで撤退しない立場を取る。一方、西岸の無許可入植地や入植者暴力への対応では差がある。ロイターの政策比較
野党政権が成立しても、直ちに和平へ大きく動くとは考えにくい。期待できる変化は、まず民間人への被害や入植者暴力の抑制、援助・復興協議の前進である。しかし、大きな軍事事件が起きれば、野党内の右派とアラブ系の支援勢力との対立が政権を揺さぶる可能性がある。
右派・宗教政権が再建されれば、極右勢力への依存度が焦点になる。入植拡大や併合要求が強まれば、西岸の衝突、パレスチナ自治政府の弱体化、周辺国との摩擦が連鎖する危険がある。ECFRの分析
対イラン・レバノン情勢では、イスラエルの首相が誰になるかに加え、米国の判断、イランとの交渉、ヒズボラの行動が大きく影響する。ロイターは、ヒズボラがイランから資金を受け、戦闘再開に備えていると報じている。ロイター、10月26日
今後の判断を変える材料は、公式の議席配分、アラブ系政党との協力を巡る主要野党の発言、そしてリクード内の動きである。同時に、地域全体の安定を考える際には、組閣の成否と並んで、停戦が実際に守られているか、住民の安全や生活が改善しているかを見続ける必要がある。

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