KSK2のトラブル・混乱はどう収束していくのか? 

徴税機能を守るリカバリーと、確定申告期に備える生活・事業防衛

前の記事から続く KSK2に何が起こっているのか?巨大システム構築における失敗・成功の要諦 

行政の基幹システムは、普段はほとんど意識されません。しかし、手続きが進まず、証明書が届かず、必要な入金の見通しが立たなくなると、その存在を急に実感します。画面の向こうにあるのは、納税者の生活であり、企業の資金繰りであり、社会を支える行政の仕事です。

前回の記事では、KSK2をめぐる公開情報を出発点に、海外の巨大システム案件、特許庁の開発中断と再出発、成功と失敗を分ける十の要素を整理しました。今回は、その続編として、稼働後の混乱をどう収束させるのか、長引いた場合に何が起こり得るのか、私たちは何を備えればよいのかを考えます。

最初に、私の立場を明確にしておきます。私はKSK2の内部事情を知る立場には全くありません。開発や運用に関与しているわけでも、内部資料にアクセスできるわけでもありません。 本稿は、国税庁などの公表資料、報道、公的な監査報告、海外の復旧事例を読み、そこから考察したものです。

また、私はこのシステムの混乱が、できるだけ早く収束することを願っています。徴税機能と税務行政への信頼が損なわれることは、社会全体にとって大きな問題です。税務職員、運用担当者、開発者など、対応に当たる方々の負担が軽減されることも願っています。

その願いと、悲観的な場合に備えることは両立します。還付や証明書を予定どおりに受け取れなかった場合、自分の家計や事業はどこまで耐えられるか。今のうちに確認しておくことには意味があると考えています。

以下では、確認できた事実、そこからの推論、数値を仮置きしたシミュレーションを区別します。将来の障害や損失を予告する記事ではありません。 とりわけ、後半の処理件数、人員、発生率、シナリオの重みは、KSK2の内部実績に基づく数字ではありません。

目次

1.確認できる事実と、まだ見えていないこと

公開情報は、サービスへの影響と個別の改善を示している

国税庁は、2026年9月24日に国税システムを更改したと公表しています。申告書などの様式、通知を特定する番号、電子交付に関する手続きにも変更があります。[1]

更改後の影響について、10月19日更新の国税庁の案内では、現金領収や納税証明書の交付など、税務署窓口の手続きに通常より時間がかかる場合があるとしています。e-Taxで請求する納税証明書も時間を要する場合があり、電子交付を希望していても書面交付となる場合があると説明されています。[2]

一方、e-Taxの個別のお知らせには、不具合が解消されたという案内もあります。例えば、インターネットバンキングによる手数料納付の問題は10月5日更新で解消が案内され、振替納税結果の表示についても10月13日更新で正しい情報を表示していると案内されています。別の告知では、贈与税関係情報に関する追加機能の提供を当分の間見合わせるとされています。[3〜5]

ここから言えるのは、国税システムの更改後に利用者の手続きへ影響する問題が生じ、個別の対処も進んでいるということです。すべての機能が停止しているとも、全体が通常どおりに戻ったとも、これだけでは判断できません。

また、基幹システム、e-Tax、認証、決済、職員が利用する環境などは、利用者には一続きに見えても、技術的には異なる構成要素です。同時期に起きた不具合を、すべてKSK2内部の同じ欠陥に結び付けることもできません。

全国の深刻度を測る数字が足りない

本稿で確認した公開資料からは、全国の未処理案件数、通常時に対する処理能力の低下率、還付遅延の件数・金額・期間の分布などを、十分な形では把握できません。

これは、状況を軽く見てよいという意味でも、深刻な事態が隠されていると断定できるという意味でもありません。外部から深刻度を判定するための情報が足りないということです。

論点確認できる範囲その先で未確認のこと
窓口・証明書通常より時間を要する場合があるとの公式案内全国の発生割合、平均・最長待ち時間、地域差
個別機能不具合や解消、提供見合わせの告知全体に対する影響割合、共通の根本原因
還付・内部処理個別の声や報道を検討する余地がある全国の滞留件数・金額、平常時との差、原因別内訳
現場負担手続きの遅延から追加作業の可能性を考えられる残業、応援人員、手作業比率、調査事務への影響の全国実績
徴税機能手続きや表示の問題と徴税全体は区別が必要税収への純影響、回収不能額、長期的な公平性への影響

SNSの投稿は、調べるべき論点を見つける手掛かりにはなります。しかし、投稿者の所属、対象業務、発生時期、原因の理解、全国的な代表性を確認できなければ、そのまま事実認定には使えません。転載や重複投稿があれば、声の数と被害の数も一致しません。

したがって本稿では、「テストを全くしていない」「特定企業の安値受注が原因だ」「全国で還付が止まっている」といった主張は採用しません。試行導入の有無と、各種テストの有無も別の論点です。調達額や担当範囲を確認せず、特定企業に原因を帰することも避けます。

2.徴税機能の低下は、どのように社会へ広がるのか

税金を受け取ることだけが、税務行政ではない

徴税という言葉からは、納税者が税金を払い、国が受け取る場面を想像しがちです。しかし、その前後には、申告の受付、税額の確認、入金の照合、訂正、還付、証明書の発行、調査、滞納整理などの仕事があります。

仮に金融機関を通じて納付ができていても、誰のどの税目の納付かを正しく記録する処理が遅れれば、別の業務に支障が出る可能性があります。反対に、内部の確認に時間がかかっているからといって、納税者による申告の提出や納付がすべて止まっているわけでもありません。

社会への影響を考えるときには、少なくとも次の四つを分ける必要があります。

  1. 速度の低下:正しく処理できるが、完了までの時間が延びる。
  2. 正確性の低下:記録、照合、金額、処理状態などに誤りが生じる。
  3. 見通しの低下:利用者にも職員にも、どこまで進み、いつ終わるかが分からない。
  4. 持続性の低下:残業や手作業で当面は支えているが、その体制を長く維持できない。

四つは連動します。見通しが立たなければ問い合わせが増え、その対応で処理の時間が減り、さらに遅れる。疲労が蓄積すれば、確認漏れや引き継ぎの失敗も起こりやすくなる。そのような悪循環が、技術的な不具合を業務全体の問題へ変えていきます。

遅延、追加費用、恒久的な損失は別のもの

還付の遅れは、受け取る側から見れば資金が使えない期間の発生です。一時的な借入れや支払時期の調整が必要になることも考えられます。しかし、還付予定額の全額が、そのまま社会の損失額になるわけではありません。

例えば、仮に100億円の入金が1か月遅れ、その全額を年利3%でつなぐとすると、単純な金利負担は約2,500万円です。これは影響の考え方を示すための仮定であり、KSK2の実際の遅延額や負担額ではありません。借入れができない企業では、金利以外に、仕入れの見送りや取引機会の損失などが生じる可能性があります。

行政側にも、追加人員、改修、問い合わせ対応、照合とやり直しの費用がかかり得ます。調査や滞納整理から人を移せば、別の仕事の機会費用も発生します。ただし、それがいくらの税収減につながるかは、件数や回収可能性、後日の処理状況を確認しなければ計算できません。

さらに深刻なのは、記録の不正確さや長期の滞留が、法的な期限管理や権利保護にまで影響する場合です。これは海外に実例がありますが、KSK2で同じことが起きていると確認したわけではありません。

3.海外の復旧事例から見える「回復にかかる時間」

初期トラブルの大きさだけで、復旧期間は決まりません。問題が性能や一部機能に集中しているか、既存データや制度上の例外に広がっているか。新たな誤りの発生を止められるか。溜まった案件を処理する余力があるか。こうした違いが時間軸を変えます。

以下は、復旧の仕組みを考えるために選んだ事例です。国、制度、規模、障害の内容が異なり、KSK2と同じ経路をたどることを意味しません。また、失敗事例を選んで比較しているため、巨大システム全体の失敗確率を推定できる標本でもありません。

米国・HealthCare.gov:統合指揮と測定で、数週間の改善を積み上げた

2013年10月の公開直後に深刻な利用障害が起きたHealthCare.govでは、10月半ばの評価を経て、技術面と管理面の対策が行われました。CMSはQSSIを統合調整の責任主体に据え、関係者が集まる指揮体制、日々の優先順位付け、監視の強化を進めたと説明しています。12月1日の報告では、約5週間の対策による大幅な改善が示されました。[6]

ここから考えられるのは、問題を測定し、優先順位を統一し、部門をまたぐ修正を進められれば、短期間でも利用者の体験を大きく改善できるということです。ただし、ウェブサイトの性能改善をもって、関連するすべての業務や過去案件が解決したと読むべきではありません。

後年の米国保健福祉省監察総監室の検証も、立ち上げ時の管理上の問題と、立て直しにおける指導体制や組織間協働の変化を取り上げています。[7]

ニュージーランド・Novopay:通常処理が安定しても、訂正と年次処理が残った

学校職員の給与システムNovopayは2012年8月に稼働し、9月に最初の給与処理を行いました。政府は翌年、当初の半年に多くの問題があったと説明しています。2013年3月には、滞留した給与案件の処理を進めるため、100人規模の専任体制を設けると発表しました。[8・9]

2013年8月の政府発表では、通常の給与処理は安定してきた一方、過払い、休暇残高、遡及支払に伴う税務処理などの課題が残っていました。前年の年末・年始の処理が問題を生んだことを踏まえ、次の年次処理に向けた準備も続いていました。[8]

さらに9月には、技術対応と研修への追加投入、地域の支援体制が発表されています。通常の給与サイクルが改善しても、年度の切り替わりを安全に通過できるとは限らなかったのです。[10]

KSK2について考える際にも、この区別は重要です。平常月の手続きを処理できるようになったことと、確定申告期の件数・組み合わせ・締切に耐えられることは、別々に確認する必要があります。

カナダ・Phoenix:増員だけでは、複雑な滞留はすぐに減らなかった

2016年に導入された連邦政府の給与システムPhoenixでは、未処理の給与案件が長期化しました。2017年の会計検査は、問題の深刻さや全体像の把握に時間がかかったことを指摘しています。[11]

カナダ政府の2021年の説明では、対応人員の大幅な増強に加え、職員の給与案件をまとめて扱う「pay pods」という体制が紹介されています。全体の未処理取引は2018年1月の約63万3,000件から2021年4月の約26万8,000件へ減りましたが、なお大きな残高がありました。これらは取引・案件の件数であり、そのまま人数ではありません。[12]

この事例から私が重視するのは、案件を細切れに直すだけでは、当事者の問題が完了しないという点です。ある人の給与には、異動、休暇、遡及修正、税額などがつながっています。同様に税務でも、申告、納付、還付、通知の一部だけを直しても、納税者から見た不整合が残る可能性があります。

デンマーク・EFI:データと法的期限の問題は、取り返しがつかなくなることがある

税務当局の債権回収システムEFIについて、デンマーク税務省は2015年3月、移行した債権の時効日付の誤りや、必要な機能の不足などを説明しました。2014年に時効となった債権の額面は約13億デンマーククローネとしています。ただし、当局自身が、その相当部分は支払能力のない債務者に関するもので、実際の価値は額面を下回ると説明しています。[13]

その後、2015年9月には自動回収が停止され、手作業を含む対応が続きました。[14]

ここでの教訓は、「データを直せば後から全部取り戻せる」とは限らないことです。業務には、期限を越えると回復できないものがあります。ただし、これを根拠に、日本で同程度の回収不能や税収喪失が起きていると推定することはできません。

一時的な障害が、長期混乱にならない場合もある

米国では2018年4月17日の申告期限日に税務システムの障害がありました。GAOは、原因となった機器の問題、当日中の復旧、1日の期限延長を報告しています。税務システムの障害というだけで、必ず年単位の混乱になるわけではありません。[15]

海外事例を読むときは、深刻な結果だけを拾うのではなく、どの層に問題があり、どの対策が効き、何が最後まで残ったのかを見る必要があります。

事例復旧の経過から確認できる点KSK2を考える際の着眼点
HealthCare.gov指揮・監視・優先順位付けを改め、数週間で大幅な改善技術的な詰まりを特定し、横断的に直せるか
Novopay通常給与の安定後も、過去の訂正と年次処理への備えが必要平常運転と繁忙期の準備を別々に評価する
Phoenix増員と業務体制の再編を続けても、滞留解消に年単位の時間新規案件と過去案件、複数処理のつながりを見る
EFIデータ・機能の問題が、法的期限の管理に波及期限や権利に関わる案件を早く保護する
米国税務システム・2018年期限日の障害が当日中に復旧障害の発生だけで長期化を決めつけない

4.現時点から1か月後、3か月後をどう考えるか

私の中心的な見立ては「改善しながら、業務上の尾を引く」

個別の不具合の解消が公表されている一方、手続きの遅延に関する案内が続いている。この組み合わせから、私は、技術的な改善と業務の滞留解消が同時進行する可能性を重く見ます。

もっとも、全国の滞留量や日々の処理能力が分からないため、復旧日を予測することはできません。そこで、2026年10月30日を起点に、11月末ごろ、2027年1月末ごろの姿を三つに分けて考えます。

下表の25%・55%・20%は、考察を具体化するために私が仮置きする主観的な重みです。統計モデルの推定確率でも、内部情報に基づく予測でもありません。数字の細かさに確かな根拠があるわけではなく、実際の滞留量が分かれば大きく見直す必要があります。

シナリオ現在の問題について置く仮説1か月後・11月末ごろ3か月後・1月末ごろ社会への影響仮の重み
A:比較的早期に安定問題が限定的な機能や性能、習熟に集中新規の処理が安定し、滞留も減る多くの業務が通常水準に近づき、繁忙期への準備が進む一時的な遅延や追加費用が中心25%
B:改善するが滞留が残る複数の不具合と手作業が重なり、例外案件が難しいよく使う機能は改善しても、複雑な案件が残る通常業務は回るが、滞留処理と確定申告準備が競合還付・証明書などの待ち時間にばらつき。現場負担が長期化55%
C:改善が需要増に追い付かないデータ・連携・例外処理の問題が広く、処理能力を圧迫修正を続けても滞留が増える年次処理と繁忙期準備が重なり、緊急の運用対策が必要資金繰り、事務負担、行政サービスへの影響が拡大し得る20%

Cの20%は、「徴税システムが全面停止する確率」ではありません。 あくまで、サービスの回復より需要や滞留の増加が速くなる経路に置いた重みです。全面的な受付停止や大規模な誤処理は、その中でも追加の条件が重なった場合の深刻な枝として考えるべきです。

また、実際には業務ごとに違う経路をたどるでしょう。証明書はAに近くても、特定の還付案件はBに近い、といった状態もあり得ます。全国を一つの文字で表すことには限界があります。

改善しているのに、待ち時間が残る理由

滞留は、単純化すると次の関係で増減します。

翌月へ持ち越す案件 = 今ある滞留 + 新しく入る案件 − 正しく完了した案件

仮に、10月末の滞留を100、平常月の新規流入も100とする指数モデルを置きます。11月と12月の流入を100、1月を130とします。1月の30%増は計算上の仮定であり、実際の税務業務量の予測ではありません。

経路月ごとの処理可能量:11月/12月/1月11月末の滞留12月末の滞留1月末の滞留
A140/150/16060100
B110/115/135907570
C85/90/105115125150

どの経路でも処理能力は改善しています。それでもCでは、滞留が100から150に増えます。Bでも、新しく入る案件をおおむね処理できるようになりながら、過去の滞留が残ります。

つまり、「先月より多く処理できた」「不具合を何件直した」という説明だけでは、利用者の待ち時間が縮んでいるかは分かりません。新規流入を上回る余力がどれだけあるか、長く待っている案件が実際に減っているかまで見る必要があります。

見立てを変えるために必要な情報

Aへ近づいていると判断する材料は、新規案件の期限内完了率の改善、古い滞留の減少、手作業比率の低下、再発の減少です。Cへ近づいていると判断する材料は、処理量が増えても滞留が増え続けること、訂正が新たな訂正を生むこと、期限に間に合わない案件が増えることなどです。

窓口の混雑や問い合わせ件数も参考になりますが、それだけでは不十分です。問い合わせが減った理由が、サービスの改善なのか、利用者が諦めたのかを区別できないからです。

5.Cの状態で確定申告期に入ると、何が起こり得るか

件数が増えるだけでなく、締切と処理の種類が重なる

国税庁の案内では、2026年分の所得税等の確定申告について、窓口での相談・受付は2027年2月16日から、申告・納付期限は3月15日です。個人事業者の消費税・地方消費税の期限は3月31日です。還付申告は2月15日以前でも受け付けられます。[16]

繁忙期の問題は、アクセス数の増加だけではありません。申告の種類が増え、年をまたぐデータの扱いが入り、問い合わせと締切対応が重なります。新システムにとって、通常月には経験していない組み合わせが増える可能性があります。

時期仮に混乱が残っていた場合の負荷特に確認したいこと
2027年1月早期の還付申告、年次処理、過去の滞留解消年度をまたぐ処理の正確性、繁忙期対策の準備状況
2月申告・相談の増加、例外案件の顕在化新規流入に対する処理能力、問い合わせの増加
3月前半所得税等の申告期限に向けた集中受付の安定、受信結果の確認、支援窓口の余力
3月後半個人事業者の消費税申告、訂正、還付処理税目間の負荷競合、待ち時間の拡大
4〜5月繁忙期に積み残した案件と通常業務滞留が減る速度、応援体制を維持できるか
その後他の行政手続きへの影響の有無を点検自治体への情報連携など、別工程への波及

これは障害の発生予定表ではありません。繁忙期を通過するために、どの順序で何を確認すべきかを示したものです。

起こり得る八つのトラブル

第一に、申告は受け付けられるが、その後の処理が遅れることです。 利用者から見ると送信が終わっているのに、内部の確認や還付へ進まないという状態です。受付の安定性だけを見て、サービス全体が回復したと判断できません。

ただし、内部処理の遅延を、そのまま納税者の申告遅れと扱うべきでもありません。e-Taxでは受信通知に受付日時などが示されるため、提出結果と、その後の処理状況を分けて確認する必要があります。[17]

第二に、少数の例外が大量の手作業になることです。 大部分の申告が自動的に進んでも、特定の組み合わせだけ止まるなら、その案件は職員の確認へ回ります。全体から見て数%でも、母数が大きければ人手では処理しきれません。

第三に、問い合わせが処理能力を削ることです。 状況が分からなければ、納税者や税理士が問い合わせるのは自然です。しかし、調べて回答できる人と、止まっている案件を解消できる人が同じであれば、問い合わせの増加は復旧を遅らせます。問い合わせを控えるよう求めるだけでは解決せず、状況表示と案内の改善が必要です。

第四に、再送信や再処理の判断が難しくなることです。 応答が返らないとき、処理そのものが失敗したのか、完了した後の通知だけが失敗したのかを区別できない場合があります。確認せずに繰り返すと、重複した申請や支払などの別の問題を生む可能性があります。

第五に、紙への切り替えが、後工程の負荷を増やすことです。 電子手続きが使いにくい場合、紙で受け付ける方法が助けになることはあります。ただし、その後に入力、読み取り、照合を要するなら、受付を守る代わりに内部の負担が増えます。紙にすれば全体が解決するとは限りません。

第六に、入金と記録の不一致が利用者を不安にさせることです。 仮に入金の照合や状態の更新が遅れ、それを検知する仕組みも十分でなければ、実際の支払と画面表示、通知が一致しない可能性があります。誤った通知が発生し得るという仮説であり、全国的に誤督促が起きていると認定するものではありません。

第七に、急いだ修正が別の問題を生むことです。 繁忙期の直前や最中に大きな変更を行えば、直した箇所以外への影響を見落とす恐れがあります。だからといって修正を止めればよいわけでもありません。影響範囲、検証結果、戻し方を見て、変更ごとに判断する必要があります。

第八に、後続の行政処理へ波及することです。 所得税の申告情報は住民税の計算にも関係します。自治体の案内でも、税務署からの申告データを住民税の計算に用いることが説明されています。[18] ただし、還付が遅いから自治体へのデータ送信も遅いとは限りません。実際にどの連携が影響を受けているかを確認して初めて、波及の範囲を論じられます。

1%の例外でも、全国規模では小さくない

財務省が紹介する2025年分の所得税等の確定申告状況では、申告人員は2,353万人、e-Taxでの申告人員は1,814万人、割合は77.1%でした。これは2025年分についての公表集計であり、全員が特定の1か月に申告したという意味ではありません。[19]

規模感だけを確認すると、2,353万人の1%は約24万人、3%は約71万人、5%は約118万人です。これはKSK2でそれだけの障害が起きているという数字ではありません。小さな割合でも、人が個別に処理するには大きな量になり得るという意味です。

6.仮定を置いて、繁忙期の滞留を計算してみる

この計算は、実態の推計ではなく感度分析です

ここでは、どの条件が結果を大きく変えるのかを見るため、単純なモデルを置きます。全国の実際の申告量、職員配置、不具合率を再現したものではありません。

仮定は次のとおりです。

  • ある繁忙月の申告を1,000万件とする。
  • 通常の審査とは別に、障害等によって追加の人手対応が必要になる割合を1%、3%、5%とする。
  • 月初に、その追加対応の滞留が10万件ある。
  • 追加対応の平均作業時間を1件30分とする。
  • 対応できる職員を1,000人、1人が当該作業に充てられる時間を1日4時間、月20日とする。

この場合、処理に使える時間は月8万時間です。1件30分なら、月16万件を処理できます。ここでいう1,000人は仮想の人員であり、現在の国税当局の配置人数ではありません。

追加対応の発生率当月の追加案件月初の滞留を含む対象件数当月の処理能力月末の滞留新規案件が一切来ない場合の解消に必要な稼働日数
1%10万件20万件16万件4万件5日
3%30万件40万件16万件24万件30日
5%50万件60万件16万件44万件55日

最後の列は、利用者一人ひとりの待ち時間予測ではありません。滞留全体を処理し切るのに必要な作業日数です。難しい案件が残る、書類の照会に時間がかかる、別の仕事が入るなどの事情があれば、さらに長くなります。

3%のケースで24万件が残り、その後も毎月10万件の追加案件が来るなら、月16万件の処理能力のうち、過去の滞留を減らせるのは6万件です。解消には4か月かかります。仮に3月末の残高であれば、同じ条件が続くと7月末までかかる計算です。

繁忙期が終わることと、繁忙期の問題が終わることは同じではありません。 この時間差が、復旧計画にも生活や事業の備えにも関係します。

問い合わせによる負荷を加えると、結果が変わる

3%のケースで生まれる30万件のうち、半分について1回ずつ、15分の問い合わせ対応が必要になると仮定します。必要な時間は3万7,500時間です。

もし、その対応を同じ月8万時間の人員枠から出すなら、処理に残るのは4万2,500時間、完了できる案件は8万5,000件です。月末の滞留は24万件ではなく31万5,000件になります。

実際には、一般的な案内を行う窓口と案件処理の担当者を分ければ、こうした影響を抑えられます。ただし、問い合わせのたびに専門担当者へ調査が必要なら、その負荷は残ります。よくある質問を増やすだけでなく、案件の状態を把握し、適切に回答できる仕組みが必要です。

増員と、不具合の抑制は同時に必要

このモデルでは、追加対応の割合を3%から1%に下げれば、月20万件の新規負担を減らせます。これは、処理要員の増強と同じくらい、あるいはそれ以上に大きな効果を持ち得ます。

一方、プログラムを直して新規の追加案件が減っても、既存の滞留は自動的には消えません。改修と滞留解消の両方が必要です。

また、人員を倍にすれば即座に処理量も倍になるわけではありません。税務知識、権限、端末、作業手順、確認担当者が必要です。熟練者が新人の支援に回るため、一時的に処理量が落ちる可能性もあります。復旧計画には、人数だけでなく、いつからどの仕事を任せられるかを織り込む必要があります。

7.リカバリーでは、どのようなチームが必要になるか

ここからは、公開されたKSK2の実際の体制を説明するものではありません。海外の復旧事例と業務の性質を踏まえ、私ならどの機能を置くかという提案です。実際には一つのチームが複数機能を担う場合もあり、以下の数だけ組織を増やせばよいという話ではありません。

最初に必要なのは、業務の優先順位を決める責任者

改修、データ修正、手作業、現場支援を別々に走らせると、各チームが自分の仕事を完了しても、納税者の手続きが終わらないことがあります。

そこで、行政側に、業務・技術・運用を横断して判断する復旧責任者と指揮体制が必要だと考えます。会議の進捗表を集めるだけでなく、どのサービスを先に回復するか、何を一時停止するか、どこへ人員を動かすかを決める権限が必要です。

優先順位には、件数と不便さだけでなく、金銭的な影響、法的な期限、誤処理の危険、生活・事業への切迫度を含めます。緊急案件を優先する場合も、判断基準を明確にし、声の大きさだけで扱いが変わらないようにする必要があります。

十の機能を、一つの復旧目標につなぐ

機能・チーム主な仕事完了を判断する対象
① プログラム改修・連携修復不具合の再現、原因分析、恒久修正、接続先との調整修正を入れたことに加え、新たな障害案件が発生しなくなったか
② データ修正影響対象の特定、正しい情報との照合、修正と検証金額・帰属・状態・履歴が正しく整合したか
③ 暫定連携・手バッチ自動連携の不備を、管理された一時的な処理で補う漏れや重複なく連携し、後で自動処理へ戻せるか
④ 滞留案件解消既に止まった申告・還付・証明書等を業務として完了させる対象案件が利用者にとって完了したか
⑤ 現場定着・負荷軽減実地支援、手順整備、相談対応、応援配置現場が無理な残業や属人対応なしに処理できるか
⑥ 基盤・性能・監視応答時間、処理待ち、夜間処理、資源利用の点検繁忙時にも必要な処理能力を確保できるか
⑦ 検証・変更管理修正の副作用、実務上の完了、復旧手順を検証本番へ出せる根拠と、不調時の対処がそろっているか
⑧ 照合・正確性確認受付、入金、還付、通知、会計等の整合を横断確認画面上の成功と、金銭・業務上の結果が一致したか
⑨ 利用者対応・情報提供状況案内、緊急案件の受付、問い合わせ整理利用者が次に何をすべきか判断できるか
⑩ 確定申告期・年次処理対策負荷試験、年次処理の検証、応援計画、代替手段の準備ピークと障害時の両方で業務を継続できるか

法務、制度担当、調達・契約、情報セキュリティも横断的に関与する必要があります。特に、通常と異なる処理を認める判断は、現場や開発者だけに委ねられません。

専門チームを作るだけでなく、業務ごとの完了責任を置く

例えば、還付に関する障害なら、プログラム改修、データ修正、支払指示、入金の確認、利用者への説明がつながります。それぞれの担当が「自分の作業は終わった」と判断しても、最後までつながっていなければ還付は届きません。

そのため、専門チームを横断する「還付」「納税証明」「納付照合」などの業務ごとの責任者も必要だと考えます。Phoenixの復旧で、職員の案件をまとめて扱う体制が採用されたことは、この発想の参考になります。[12]

関係企業が複数あること自体が失敗の原因ではありません。問題は、担当境界をまたぐ事象を誰が引き取り、誰が最後まで解決するかです。

不具合、影響案件、修復作業を混ぜない

復旧管理では、少なくとも三つの台帳を関連付ける必要があります。

  1. 不具合の台帳:何が原因で、どの条件で起こり、恒久対策は何か。
  2. 影響を受けた業務案件の台帳:誰のどの手続きが止まり、何をすれば完了するか。
  3. 修復作業の台帳:どのデータを、誰が、いつ、どの手順で直し、どう確認したか。

一つの不具合が数万件の案件に影響することもあれば、一つの案件に複数の不具合が重なることもあります。「不具合を閉じた」という管理と、「利用者の問題が解決した」という管理をつなぐことが不可欠です。

8.「手バッチ」とデータ修正は、復旧の要にも新たな火種にもなる

手バッチは、人手で処理すること自体が問題なのではない

自動的に送られるはずの情報を一時的に抽出し、人が確認したうえで別のシステムへ取り込む。こうした臨時の作業を、ここでは「手バッチ」と呼びます。必ずしも手入力だけを指さず、抽出・変換・実行の判断を人が管理する処理も含みます。

適切に設計すれば、恒久改修を待つ間にも重要なサービスを守れます。しかし、手順や対象が担当者の記憶に依存すると、重複、漏れ、誤った順序、情報の持ち出しなどの危険が増えます。

Novopayの技術レビューは、暫定対応の管理が十分でないこと、恒久修正後の扱いが統一されていないこと、変更管理やデータ修正に伴う問題などを指摘しています。緊急時の回避策にも管理が必要であることを示す事例です。[20]

暫定処理に必要な約束事

私なら、少なくとも次を作業手順の一部にします。

  • 対象の案件、期間、抽出条件を明確にする。
  • 元のシステムと暫定処理のどちらが処理するかを決め、二重実行を防ぐ。
  • 件数、金額、処理済みの識別情報を照合する。
  • 実行前の承認と実行後の確認を分ける。
  • 途中で失敗したとき、どこまで完了したか確認できるようにする。
  • 操作権限とデータの保存先を限定し、作業履歴を残す。
  • 恒久修正後に、いつ、誰が、どの条件で暫定処理を終了するか決める。

「もう一度実行しても同じ結果になり、二重の支払や登録を生まない」性質も重要です。専門的には冪等性と呼びますが、現場の言葉にすれば、やり直しが新しい事故にならないことです。

また、データベースを元へ戻せば、既に外部へ送った通知や振り込んだ資金まで元に戻るわけではありません。技術上の巻き戻しと、業務上の訂正・回収・説明は分けて準備する必要があります。

データ修正では、何を正しい情報とするかを先に決める

旧システムの値に戻せば正しいとは限りません。元の申告内容、変更履歴、金融機関の結果、既に実施した業務上の判断などを照合し、どの情報を根拠に修正するかを業務側が承認する必要があります。

原因が残ったまま修正すれば、同じ誤りを作り続けるかもしれません。一方、恒久改修を待つ間にも、緊急の案件だけ先に訂正する必要がある場合があります。順序は一律に決められず、再発を防ぐ措置と対象管理を伴って判断すべきです。

現場支援は、説明動画を配るだけでは完了しない

操作を知らないのか、業務ルールが変わったのか、データがおかしいのか、システムが本当に止まっているのか。現場の困りごとは、同じ画面の前で起きても中身が違います。

実地で相談に乗れる人を置き、よくある問題を整理し、システム側へ戻すべきものと手順で解決できるものを切り分ける必要があります。その情報をマニュアルと研修へ反映することで、同じ問い合わせの繰り返しを減らせます。

ただし、熟練者を中央の復旧チームへ集め過ぎれば、税務署などの処理能力を下げます。誰を引き上げ、誰が補うかまで考える必要があります。疲弊した職員への追加研修だけで回復を図ることにも限界があります。

9.復旧は、どの順序で進めるべきか

復旧作業には順序がありますが、すべてを直列に並べることはできません。差し迫った案件を守りながら、恒久改修と繁忙期の準備を進める必要があります。

下表は、復旧体制を整えた時点からの計画の考え方です。KSK2がこの期間で回復するという予測でも、現在この体制がないという指摘でもありません。

段階時間の目安として置く範囲重点次へ進む条件
影響把握と拡大防止最初の1〜2週間影響業務と案件の把握、危険な処理の制御、緊急案件の救済何が止まり、何が誤るかを把握し、追加被害を抑えられる
新規処理の安定化2〜6週間程度頻出不具合の修正、連携・性能改善、暫定手順の統一新しく入る案件を正しく処理でき、例外の発生が減る
滞留の解消1〜3か月以上過去案件の照合・訂正、長期滞留と期限案件の解消古い案件が継続的に減り、個別の不利益を解消できる
通常運用への移行条件を満たした業務から順次手バッチの終了、応援体制の縮小、保守への引き継ぎ特別対応を減らしても、正確性と処理水準を維持できる

確定申告期の準備は、滞留を全部解消してから始めるものではありません。年次処理の検証、負荷の確認、窓口の応援計画、障害時の案内などを並行して進める必要があります。

稼働済みシステムを、単純に旧システムへ戻せるとは限らない

全国で稼働した後には、新しい申告、入金、訂正、通知などが積み上がっています。旧システムに戻すには、それらを矛盾なく引き継げるかを確認しなければなりません。制度やデータ形式が変わっていれば、なおさら難しくなります。

そのため、復旧の選択肢は、全体を新旧どちらかにすることだけではありません。問題のある機能を限定して止める、対象案件を分ける、一部を暫定処理で補う、修正を小さな範囲から反映するなど、影響を限定する方法を比較する必要があります。KSK2でどの方法が技術的に可能かは、公開情報だけでは判断できません。

「収束」の条件を、先に決める

私なら、次の三つがそろったときに、業務が収束へ向かっていると評価します。

第一に、新しい案件を正しく、必要な時間内に処理できること。第二に、過去に影響を受けた案件を特定し、未解決の不利益が減っていること。第三に、大量の残業や臨時の手作業を減らしても、その水準を維持できることです。

不具合がゼロになるまで収束と認めないという基準も現実的ではありません。残っている問題の重大さ、影響する範囲、代替手段、処理期限を見て判断すべきです。ただし、表面のエラーが減ったことだけをもって、困っている人がいなくなったと扱うべきでもありません。

10.前回の「十の要素」は、復旧局面でどう現れるか

前回は、巨大システムの成功と失敗に関わる十の要素を整理しました。それらは導入前のチェック項目にとどまらず、稼働後のリカバリーにもそのまま関係します。

前回の要素復旧局面で問われること具体的な行動
① 成功の定義が、業務と投資効果まで届いているか修正件数だけで成功としていないか還付・証明書等の完了、待ち時間、利用者の不利益で評価する
② 業務の例外を理解し、残すものと整理するものを決めているか複雑な案件を後回しにし続けていないか例外の種類を把握し、制度上必要なものと運用で整理できるものを分ける
③ 発注側に、業務を決める権限と能力があるか優先順位や暫定措置を誰が決めるか業務責任者に判断権限を持たせ、企業間の調整を任せきりにしない
④ 悪い情報が届き、計画変更につながるか現場の負担や未処理が上層部へ届くか滞留の増加や再発を報告し、追加人員や計画変更へつなげる
⑤ 重要な不確実性を、早い段階で確かめているか繁忙期になって初めて年次処理を試すことにならないか先に難しい組み合わせと処理量を検証する
⑥ テストが、利用者の業務完了と失敗からの復旧を確認しているか正常時だけでなく、途中失敗や再実行を確認したか受付から支払・通知まで、切断や再処理を含めて確かめる
⑦ 段階導入が、影響の限定と学習につながっているか修正を全国へ一斉に反映して問題を広げないか可能な範囲で対象を絞り、結果を確認して広げる
⑧ 稼働直後に、現場が問題を吸収する余力を持っているか復旧作業が通常業務を食い尽くしていないか応援、実地支援、休息、問い合わせの分担を組み込む
⑨ 契約と予算が、全体の成果を促しているか各社の担当完了が、業務完了と食い違っていないか共同の完了基準と調整責任を置き、復旧に必要な資源を確保する
⑩ 出力の正しさと権利保護を、継続して検証しているか速度を優先し、誤処理や不利益を見逃していないか金銭・帰属・期限を照合し、誤りの訂正と説明を追跡する

復旧では、とりわけ①、③、⑧、⑩の結び付きが重要だと考えます。何を回復させるのかを定め、業務側が判断し、現場の余力を確保し、正しい結果が出たことを確かめる。このつながりが弱いと、修正も増員も個別の活動で終わりがちです。

特許庁の再出発から学んだように、一度の失敗でその後の成否が決まるわけではありません。ただし、進め方や判断の仕組みを変えずに、同じ計画を急がせるだけでは回復は難しくなります。必要なのは、問題を認めたうえで、業務が成立する条件を作り直すことです。

11.生活防衛と事業防衛として、何をしておくか

自分が依存している手続きを確認する

生活防衛といっても、全員が同じ準備をする必要はありません。税務手続きに関連する入金や証明書が、近い将来の支払や契約にどれだけ関係しているかで、必要な備えは変わります。

まず、還付を見込んでいるか、証明書の提出予定があるか、申告や納付を期限直前にまとめる予定になっていないかを確認します。具体的な依存関係がなければ、大きな行動変更が必要とは限りません。

本稿の情報から、預金の安全性、通貨価値、国の資金調達に重大な問題が生じるとまでは推論できません。家計や事業でできる備えは、まず手続きと資金の時間差を吸収することです。

家計では、還付の入金日を確定した収入として扱わない

還付を生活費、大きな買い物、借入れの返済などに充てる予定がある場合は、入金が1か月、2か月、3か月遅れても支払えるかを確認します。この期間はストレスをかけて考えるための仮定であり、実際の遅延予測ではありません。

予定どおりの入金がなくても支払える範囲で支出を決め、余裕がない場合は、変更できる支出を先に見直す。遅延を見越して無理に借入れをするというより、どの時点で誰へ相談するかを決めておく方が現実的です。

事業では、月次だけでなく週次の資金繰りを見る

事業者の場合は、還付が見込まれる金額と時期を資金繰り表に分けて記載し、入金が遅れたケースを作ると、影響を把握しやすくなります。給与、仕入れ、家賃、借入返済、納税など、動かしにくい支払がどの週に重なるかを見るためです。

例えば、単純化した会社で、月初の使える資金が500万円、通常の入金が300万円、必要な支払が700万円、見込む還付が200万円だとします。還付が来れば月末は300万円ですが、来なければ100万円です。遅延によって200万円を永久に失ったわけではなくても、資金の余裕は大きく変わります。

この例は説明用です。実際には月中の支払日、入金の確度、他の資金用途も含めて確認します。不足が見える場合には、税理士や取引金融機関などへ早めに相談し、利用可能な手段と費用を把握しておくことが考えられます。システム障害を理由に、融資や特別な救済が必ず認められるという意味ではありません。

証明書は、提出先の条件を早めに確かめる

融資、入札、許認可などで納税証明書が必要な場合は、必要な種類、発行日の条件、提出期限、受け付けられる形式を先に確認します。早く取り過ぎると提出先が求める条件から外れることもあるため、単に急いで請求すればよいわけではありません。

国税庁は、e-Taxで請求した証明書が書面交付となる場合があることや、連絡のために電話番号の登録が必要なことを案内しています。[2] こうした具体的な案内を確認し、提出先にも遅延時の扱いを事前に相談しておくと、直前の選択肢が増えます。

提出・納付の記録を、後から説明できる形で残す

申告データ、受信通知、受付日時、納付結果、銀行口座の引落し、問い合わせの日時と回答などを整理しておきます。画面の表示だけを見て不安になった場合も、記録があれば、どの段階で食い違っているかを確認しやすくなります。

e-Taxの案内では、即時通知や受信通知の確認・保存が説明されています。また、還付については処理状況を確認する機能があります。[17・21・22] ただし、表示される状態と実際の入金は別の段階です。確認できる範囲を理解して利用する必要があります。

申告内容や納付状況に疑問がある場合は、既存の記録を確認し、必要に応じて窓口へ照会します。確認せずに何度も提出・納付し直すと、問題を増やす可能性があります。

期限延長や救済は、公式な案内を確認する

過去には、申告期限の直前に電子申告の障害が起きた例があります。しかし、今回も自動的に期限が延長されると考えて行動することはできません。

国税庁は、納付が困難な場合の相談や、要件に応じた猶予制度などを案内しています。[16] 自分の事情にどの制度が適用されるか、障害に伴う個別の取扱いが発表されているかを確認する必要があります。「システムが混乱しているから、申告や納付を待ってよい」と自己判断しないことが大切です。

対象今のうちに確認すること状況が悪化した場合に判断すること
家計還付を使う予定、支払日、手元資金支出の見直し、相談が必要になる時点
個人事業主・企業還付を除いた資金繰り、固定支払、相談先資金調達や支払調整の必要性と費用
証明書が必要な人必要書類、発行日の条件、提出期限提出先に認められる対応があるか
申告・納付をする人準備日程、受信通知、納付記録障害時の公式案内、適切な問い合わせ先
税理士・経理担当案件別の受付・処理・入金の状態顧客への説明、緊急度、照会の優先順位

12.外部から何を見れば、回復を判断できるのか

国税システムの内部構造を詳しく公表しなくても、利用者にとって役立つ情報は示せます。私が知りたいのは、まず、どの手続きでどの程度の遅延があり、利用者は何をすべきかという情報です。

そのうえで、業務ごとに次のような指標があれば、改善の方向を判断しやすくなります。

指標分かること読むときの注意
新規受付と正しく完了した件数滞留を増やさず処理できているか受付と完了の範囲・単位をそろえる
未処理件数と経過日数別の内訳古い案件が置き去りになっていないか通常の審査待ちと障害由来の滞留を区別する
完了までの日数の分布平均では見えない長期の待ち時間税目・申請内容・必要な照会の違いを考慮する
誤処理・再処理の発生状況速度の改善と正確性が両立しているか検査対象と分母、重大さを示す
手作業・暫定処理の割合特別対応への依存が減っているか作業の複雑さと所要時間も見る
問い合わせ・応援体制の負荷現場が持続できる状態か件数だけでなく解決率や専門担当への照会を捉える
繁忙期に向けた検証・対策の進捗次の負荷に備えられているか検証実施の有無に加え、残る問題と対処を見る

個人情報を公表する必要はありません。全国の集計と業務ごとの説明があるだけでも、不安や憶測を減らせます。見通しに幅があるなら、その幅と次の更新時期を示すこともできます。

急ぐほど、正確性と公平性を守る必要がある

復旧を急ぐと、処理件数を増やすことが目標になりがちです。しかし、税務行政では、誤った相手に支払う、納付を正しく記録しない、必要な確認を省くといった結果を避けなければなりません。

一方、慎重さを理由にすべての案件を止めれば、生活や事業への影響が大きくなります。安全に処理できる案件を進め、判断が難しい案件は理由と期限を明確にして管理する。速度と正確性を両立させるための業務設計が求められます。

税務職員や窓口担当者への非難を強めても、この設計は改善しません。現場から問題が上がり、それを修正や人員配置へ反映できることが重要です。同時に、行政の説明責任や、後日の第三者的な検証を曖昧にしてよいということでもありません。

13.早期収束を願いながら、準備をしておく

今回考察して、私が最も気になったのは、システムが動いて見えるようになった後にも、利用者の問題が残る可能性です。

画面のエラーが消えても、処理途中の案件が残る。新しい案件は進んでも、以前から待っている人が取り残される。通常月は回っても、確定申告期の件数と組み合わせには耐えられない。海外の事例は、そうした段階の違いを示しています。

だからこそ、復旧には、プログラム改修、データ修正、暫定連携、滞留解消、現場支援、利用者への情報提供が必要です。それらが、手続きを正しく完了させるという一つの目標につながっていなければなりません。

現時点の公開情報から、KSK2が海外の深刻な失敗と同じ経路をたどると断定することはできません。個別の改善が続き、比較的早く安定する可能性もあります。私は、その方向へ進んでほしいと願っています。

同時に、還付や証明書に依存する予定を確認し、入金の遅れに備え、提出と納付の記録を残すことは、過度な悲観ではないと考えます。必要な備えをしておけば、早く収束したときにも大きな無駄にはなりません。

徴税機能は、行政サービスを支える基盤です。そして、税金を正しく納めた人、正しく還付を受ける人が、余計な不安や負担を背負わずに済むことも、その基盤の一部です。回復を評価する際には、システムの稼働状況とともに、そこまで目を向けたいと思います。


出典・参考資料

本稿の事実記述は、以下の公開資料に基づきます。将来シナリオ、確率の重み、処理能力のモデル、復旧体制の提案、生活・事業への備えに関する考察は筆者によるものです。海外の政府発表は当時の当局の説明であり、監査報告と同じ意味での独立した評価ではありません。資料は更新される場合があるため、実際の手続きでは最新の公式案内を確認してください。

  1. 国税庁「国税システムの更改に伴う各種変更点」等の案内。2026年9月24日の更改と手続きの変更。
  2. 国税庁「税務署窓口における手続について」案内PDF。2026年10月19日更新。窓口手続き・納税証明書の遅延、電子請求時の注意。
  3. e-Tax「手数料の納付」に関する不具合解消のお知らせ。2026年10月5日更新。
  4. e-Tax「【解消】『振替納税結果表示』画面に『振替不能』等と表示された方へ」。2026年10月13日更新。
  5. e-Tax「マイページの『贈与税関係情報』が更に便利になります。」。2026年10月16日更新。追加機能に関する情報提供の見合わせ。
  6. CMS, “HealthCare.gov Progress and Performance Report”, 2013年12月1日。統合指揮、監視、約5週間の改善についての当局報告。
  7. HHS Office of Inspector General, “HealthCare.gov: Case Study of CMS Management of the Federal Marketplace”, 2016年。管理上の問題と立て直しの検証。
  8. New Zealand Government, “Novopay stabilising a year on but more work to do”, 2013年8月20日。稼働後1年間の経過、残る訂正、年末年始の準備。
  9. New Zealand Government, “New unit to clear Novopay backlog”, 2013年3月11日。滞留解消のための専任体制。
  10. New Zealand Government, “Big push for End of Year/Start of Year Novopay”, 2013年9月18日。技術対応・研修・地域支援の追加。
  11. Office of the Auditor General of Canada, “Phoenix Pay Problems”, 2017年秋の報告。導入後の問題把握と対応の検証。
  12. Public Services and Procurement Canada, “Phoenix: Standing Committee on Public Accounts—May 27, 2021”。増員、pay pods、未処理取引の推移。
  13. Danish Ministry of Taxation, “EFI fortsat årsag til forældelser”, 2015年3月26日。移行データ、時効管理、時効となった債権の額面と回収可能性。
  14. Rigsrevisionen「SKATのシステム近代化」に関する監査・フォローアップ資料。EFIの停止後を含む経過。
  15. U.S. Government Accountability Office, GAO-18-471, 2018年。2018年の申告期と4月17日の障害。PDF本文18ページ付近。
  16. 国税庁「申告と納税」。2026年分の申告・納付期限、納付困難時の相談等。
  17. e-Tax「e-Taxを利用して申告等データを送信した場合、税務署の受付日時等はどのように確認できますか。」。受信通知による確認。
  18. 茨木市、所得税の確定申告と個人住民税に関する案内。税務署から受領する申告データの利用。
  19. 財務省『ファイナンス』2026年8月号「令和7年分の所得税等、消費税及び贈与税の確定申告状況等について」。申告人員とe-Tax利用状況。
  20. “Novopay Technical Review”, 2013年。暫定対応、変更管理、データ修正等の課題。
  21. e-Tax、送信後の即時通知・受信通知の確認と保存に関するFAQ。
  22. e-Tax「還付金処理状況確認について」。還付の処理段階と確認方法。

※ 本稿は2026年10月30日時点の公開情報を基にした考察です。KSK2内部の障害件数、原因、全国の滞留規模、実際の復旧体制を把握した記事ではありません。数値シミュレーションの条件を変えれば結果も変わります。

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