マクロリスク・モニター 2/4
リスク計測モデル
このページは計算のルールをすべて公開します。読者が同じ入力から同じ結果を再現できることを目標にしています。現行のモデル版はv2.4です。
構成と版管理
v1.0は初版で、Score=(0.7M+0.3L+0.25D)×20という単純な式でした。v2.0で次の8点を変えました。
| 変更 | 理由 |
|---|---|
| 方向感Dをスコアから分離 | 悪化が止まるだけで指数が下がる問題があった |
| ②を公的部門の財政に限定 | 金融ストレスを測るFCOと二重に数えていた |
| FCOとFFIの2本立て | ストレスだけでは2007年のような状態を見逃す |
| SURIを20か国の国別に | 平均は分布を潰す |
| 遡及検証を2008年のみから5エピソードに | 1時点では尺度を確かめられない |
| アンカー表、機械計算、予測ログ | 採点が少しずつずれるのを防ぐ |
| データを縦持ちにし数式で連動 | 手作業の転記ミスを防ぐ |
| GRCSを平均0.6+上位2つ0.4に | 単純平均の希釈と、最大値の天井効果を避ける |
| 版 | 時期 | 内容 |
|---|---|---|
| v2.1 | 2026年9月 | FCOに第6項(介入使用量)を追加。指標を6つ追加。8月確定版 |
| v2.2 | 2026年9月 | 356か月の全数検定。モデルの位置づけを変更 |
| v2.3 | 2026年9月 | エピソードのFCOを再計算 |
| v2.4 | 2026年10月 | 9月確定版。仮説検証の枠組み。FFI×GRCS4の警戒指標案を撤回。Lの上げ過ぎ防止ルール |
指数の定義
Level = (0.7 × M + 0.3 × L) × 20
GRCS5 = 0.6 × (5リスクのLevelの平均) + 0.4 × (上位2リスクのLevelの平均)
GRCS4 = ⑤AI・雇用を除いて同じ式で計算
SCI = (5連鎖の強度の平均) × 20
SURI = 0.35 家計ストレス + 0.25 抗議動員 + 0.20 政府の脆弱性 + 0.20 紛争の波及
RCEI = 0.30 戦闘強度 + 0.25 エスカレーション速度 + 0.15 国家の脆弱性 + 0.15 食料・エネルギー・水 + 0.15 難民・越境
FFI = 0.20 レバレッジ・信用の質 + 0.15 満期の壁 + 0.20 バリュエーション・スプレッド圧縮 + 0.20 不透明資産 + 0.10 銀行貸出態度・BS + 0.15 対外脆弱性
FCO = 0.25 信用 + 0.20 ボラティリティ + 0.15 資金調達 + 0.15 銀行 + 0.10 流動性 + 0.15 介入使用量
| 指数 | 正式名 | 用途 |
|---|---|---|
| GRCS5 | Global Rolling Crisis Score | 現在の複合マクロ圧力の本体 |
| GRCS4 | 同上(⑤を除く) | ⑤AIのデータがない過去との比較専用 |
| FFI | Financial Fragility Index | 平時に蓄積する金融の弱さ |
| FCO | Financial Contagion Overlay | 民間金融システムで今起きているストレス |
| SCI | Systemic Coupling Index | 5つの連鎖の強度 |
| SURI | Social Unrest Risk Index | 20か国の社会不安。≥60の国数、人口加重、GDP加重、最大値で集計 |
| RCEI | Regional Conflict Escalation Index | 地域紛争のエスカレーション |
MとLは1〜5、方向感Dは−2〜+2です。Dはスコアに入れず、別に表示します。
採点アンカー
Mは下表の基準で採点します。Lは他のリスクのMを1段押し上げる経路が現実に成立しているかを見ます。目安は関連する連鎖の最大値です。裁量は±1までで、理由を注記します。
| M | ① 気候・食料・水 | ② 財政(公的部門) | ③ エネルギー・海運 | ④ 政治・地政学 | ⑤ AI・雇用 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 気温偏差+0.3℃超、価格影響なし | 利払い/税収が過去平均圏 | 価格、通航とも平時圏 | 通常の政治対立 | 導入は限定的、雇用統計に影響なし |
| 2 | FAO名目前年比+3%未満、局地的減産 | 長期金利が過去10年の70パーセンタイル超 | 価格が過去5年の上位25%、または通航10%以上減 | 選挙、政権交代による政策不連続の懸念 | 一部業種で採用抑制 |
| 3 | FAO実質が過去20年の60パーセンタイル超、主要2か国で収量5%超の下方修正 | 主要国で利払い/税収10%超、入札テール拡大 | 主要チョークポイントの通航30%以上減、または原油が過去10年の80パーセンタイル超 | 主要国間の制裁、軍事的緊張、戦闘イベント3か月比+10% | エントリーレベル求人が前年比5%超減、AI理由のレイオフが全体の20%超 |
| 4 | 上記に加え輸出規制国3か国以上、または在庫率が20年平均を5pt下回る | 複数国で歳出増と税収減が同時進行、格下げ観測 | 通航70%以上減、または供給500万b/d以上減 | 地域戦争が進行、戦闘イベント3か月比+25%、大国が直接関与 | ホワイトカラー求人が広範に減少、収益と雇用の乖離が2桁pt |
| 5 | 複数の主要穀物で同時不作、輸出規制10か国超、実質指数が過去最高圏 | 主要国の入札不調が常態化、ソブリン格下げの連鎖 | 複数チョークポイントの同時封鎖、供給1,000万b/d超喪失 | 複数地域で同時の大規模武力紛争、大国間の直接衝突 | ホワイトカラー失業率がマクロ統計で明確に悪化 |
FCOの変換と閾値
信用、ボラティリティ、介入使用量は機械計算です。資金調達、銀行、流動性の3項目は専門判断で採点します(合計40%)。変換はパーセンタイルではなくストレス変換です。中央値付近は概ね10点で、上位テールで急に上がります。ブレークポイントは1997〜2025年の分布の概算です。
HY OAS(%)→点数: 2→0, 2.5→2, 3→6, 3.5→12, 4.5→22, 5.5→35, 7→50, 9→68, 12→85, 18→95, 24→100
VIX→点数: 10→0, 14→5, 17→10, 20→20, 25→35, 30→50, 40→70, 55→85, 80→100
介入ストレス = MIN(100, MAX(0, 100 × LN(MAX(X, 10) / 10) / LN(45))) X=連銀貸出の月内最大(十億ドル)
点の間は線形内挿です。連銀貸出は100億ドル以下で0、4,500億ドルで100です。
区分の閾値
| 指数 | Low 低位 | Watch 注視 | Elevated 上昇 | High 高位 | Severe 深刻 | Systemic システミック |
|---|---|---|---|---|---|---|
| GRCS | <40 | 40-54 | 55-69 | 70-79 | 80-89 | 90+ |
| FFI | <35 | 35-49 | 50-64 | 65-74 | 75-84 | 85+ |
| FCO | <15 | 15-29 | 30-49 | 50-69 | 70-84 | 85+ |
| SURI, RCEI | <20 | 20-39 | 40-59 | 60-74 | 75-89 | 90+ |
レジーム判定
レジームは上から順に判定し、最初に当てはまった行を採用します。
| 順 | 条件 | レジーム |
|---|---|---|
| 1 | FCO ≥ 70 かつ GRCS5 ≥ 80 | システミック複合危機 Systemic Compound Crisis |
| 2 | FCO ≥ 70 | 金融主導の危機 Financial-Led Crisis |
| 3 | FCO ≥ 30 かつ GRCS5 ≥ 75 | マクロ・金融波及 Macro-Financial Contagion |
| 4 | FCO ≥ 30 | 金融ストレス Financial Stress |
| 5 | GRCS5 ≥ 75 かつ FFI ≥ 65 | 複合マクロ・ストレス+潜在脆弱性 Compound Macro Stress / Latent Fragility |
| 6 | GRCS5 ≥ 75 | 複合マクロ・ストレス Compound Macro Stress |
| 7 | GRCS5 ≥ 55 | マクロ圧力の上昇 Elevated Macro Stress |
| 8 | 上記以外 | 平常 Normal |
判定ルールを過去に当てはめた結果はモデルの検証にあります。レジームが変わった月は、臨時号を出します。
proxy-GRCS
主観の採点を点検するため、市場と統計だけから機械的に計算する客観版を併記します。
| 軸 | 元データ | 処理 |
|---|---|---|
| 食料 | IMF PFOODINDEXM | CPIで実質化 |
| 財政 | ACM 10年タームプレミアム(THREEFYTP10) | そのまま |
| エネルギー | IMF POILBREUSDM | CPIで実質化 |
| 地政学 | GPR指数 | そのまま |
各軸を拡張窓パーセンタイルに変換し(助走60か月)、GRCSと同じ式で集計します。CPIはCPIAUCSLで、2025年10月は政府閉鎖のため線形内挿です。主観のGRCS4との差が±15を超えたら採点基準を点検します。
予測ログとBrierスコア
毎号、当否を誰でも判定できる予測を確率と期限つきで発行します。Brierスコアは(確率−結果)²の平均です。0が完璧で、低いほど良く、すべて50%と答えると0.25です。基準率を使う目安は0.20です。
0.25を継続して下回らないなら、モデルの構成やウェイトを見直します。到達型の予測は成立した時点で確定し、未達の予測は期限が来るまで0として計上しません。そのため初期は的中が先に並ぶ偏りがあります。的中でも低い確率しか置かなければスコアは悪くなり、これは正しい挙動です。
データの扱い
| 状態 | 意味 |
|---|---|
| 実測 | 公式統計や市場データをそのまま使用 |
| 概算 | 報道などからの概数 |
| 推計 | 内挿やモデルによる推定 |
| 要取得 | 未入手で、スコアに使っていない |
| 旧版 | 改定前の値 |
- データは上書きせず、改定は新しい版として追記します。前月のスコアは変えません。
- 市場データは月末値、商品と金利は月平均を原則とします。
- 生データを見る前にスコアを決めません。直近3か月のドリフトを毎月点検します。
- Lは+0.5以上の段差があるときだけ動かします(2026年9月から)。
- 国別SURIは公開情報に基づくモデル値で、各国の公式評価や格付けではありません。
限界と次の版
- MとLは専門判断です。遡及採点は当時の公式な指数ではありません。
- 金融側の指標は米国中心です。連銀貸出はH.4.1の貸出のみで、資産購入やスワップラインを含みません。
- FAO実質指数、穀物在庫率、輸出規制国数、Food Gap、ライン川水位、OFRの指数は未取得です。
- proxy-GRCSに気候とAIの軸はありません。
- 次号で、主観と客観の差が±15を超えたことを受けて採点基準を点検します。アンカーの見直しは毎年1月の年次検証で行います。