マクロリスク・モニター 2026年9月確定版(MR-2026-09)

at.AI / 最終更新 2026年11月3日

実行ID
MR-2026-09
対象月
2026年9月
種類
確定版
モデル版
v2.4
作成時点
2026年10月6日
公開日
2026年11月3日

読み方の注意。このレポートは2026年10月6日時点のデータで作成しました。公開後は書き換えず、訂正は次号以降に記録します。

proxy-GRCSは作成時に76.3(過去比88.5パーセンタイル)と算出しましたが、公開にあたり全期間を同じ出所に統一して再計算し、74.1(同82.4)を掲載します。差の内訳は主観と客観の比較に記します。

この号の結論

目次

  1. 現在地
  2. レジーム判定
  3. 5大リスク
  4. 金融波及の3層チェック
  5. 社会不安と地域紛争
  6. 連鎖の強度
  7. 主観と客観の比較
  8. 検証中の仮説
  9. 予測ログ
  10. 来月の注視項目
  11. データ改定の記録
  12. 出典と限界

現在地

指数内容当月前月前月差区分
GRCS5複合マクロ圧力(5リスク)85.7083.44+2.26Severe
GRCS4時代間比較用(⑤AIを除く)89.2887.01+2.27Severe
FFI金融脆弱性(平時に蓄積する弱さ)71.4571.10+0.35High
FCO金融ストレス(今起きている緊張)5.343.27+2.07Low
SCI連鎖の強度82.0078.80+3.20—
SURI≥60社会不安リスクが60以上の国数(20か国中)1210+2—
RCEI地域紛争エスカレーション80.7077.85+2.85Severe

区分は指数ごとの閾値です。定義はリスク計測モデルを参照してください。

2026年の主要3指数の推移の折れ線グラフ
図1 主要3指数の推移。GRCS5とFFIは高位、FCOは低位です。同じ0〜100の尺度で、1つの軸に描いています。

注目点は、高いマクロ圧力と低い金融ストレスの組み合わせが続いたまま、価格の層だけが初めて動いたことです。FCOの区分が変わるほどの動きではありません。

レジーム判定

9月のレジームは複合マクロ・ストレス+潜在脆弱性です。GRCS5が75以上、FFIが65以上、FCOが30未満という条件を満たします。この判定は4月から6か月連続です。

月GRCS5FFIFCOレジーム
1月49.9166.104.89平常
Normal
2月55.7066.257.51マクロ圧力の上昇
Elevated Macro Stress
3月70.2967.1014.04マクロ圧力の上昇
Elevated Macro Stress
4月75.9868.454.77複合マクロ・ストレス+潜在脆弱性
Compound Macro Stress / Latent Fragility
5月78.9969.503.58複合マクロ・ストレス+潜在脆弱性
Compound Macro Stress / Latent Fragility
6月80.2769.904.32複合マクロ・ストレス+潜在脆弱性
Compound Macro Stress / Latent Fragility
7月81.5770.804.36複合マクロ・ストレス+潜在脆弱性
Compound Macro Stress / Latent Fragility
8月83.4471.103.27複合マクロ・ストレス+潜在脆弱性
Compound Macro Stress / Latent Fragility
9月85.7071.455.34複合マクロ・ストレス+潜在脆弱性
Compound Macro Stress / Latent Fragility

5大リスク

リスクMLLevel前月差D
① 気候・食料・水4.24.585.8+2.8+1
② 財政(公的部門)3.84.479.6+5.8+1
③ エネルギー・海運4.54.992.4+1.4+1
④ 政治・地政学4.54.891.8+1.4+1
⑤ AI・雇用3.02.657.6+2.8+1

M=当月の水準、L=連鎖の結合度(各1〜5)、Level=(0.7M+0.3L)×20。Dは方向(−2〜+2)で、スコアには入りません。

5大リスクのLevelの小多重折れ線グラフ
図2 5大リスクのLevel。5つのパネルは同じ尺度です。

採点の理由

ホルムズの物量と価格は逆に動きました。通航は週82隻、95隻と回復し、原油の通過量は約740万b/dで、戦前の約2,000万b/dの約4割です。一方でBrentは大きく上がりました。月末のBrentは約107ドルです。

主要な実体指標

指標前月当月
世界気温偏差(℃)0.850.82
FAO食料価格指数134.0136.0
FAO穀物価格指数116.8122.8
Brent原油(ドル)90.9116.8
欧州ガス(ドル/MMBtu)21.1125.42
ホルムズ通航(隻/日、報道概算)513
レイオフのうちAIを理由とする割合(%)6.59.2

Brentと欧州ガスは世界銀行の月平均です。FAOは各号の作成時点の公表値で、後の改定は改定記録に残します。

金融波及の3層チェック

金融波及は価格、信用・レバレッジ、配管の3層に分けて確認します。今月は3層の結果が分かれました。

価格の層は動きました。HY OASの拡大は9月23日の2.73%以降に集中しています。HY発行は385億ドルで年内最大、CCCスプレッドは968bpで2023年11月以来の高さです。新規発行の消化不良と質の選別が背景と考えられます。

信用・レバレッジの層は緩和のままです。NFCI信用は−0.06、NFCI総合は−0.56です。ただしNFCI非金融レバレッジは−0.47へ上昇を続け、2010年以降の93パーセンタイルにあります。

配管の層は平時です。SOFR−IORBは0bp、連銀貸出は88億ドルで、利上げの後も逼迫は見えません。

層指標前月当月
価格の層米HY OAS(%、月末)2.633.12
価格の層新興国スプレッド代理(bp)290319
価格の層VIX(月末)14.9216.34
価格の層STLFSI4−0.81−0.79
価格の層米30年債(%、月平均)5.225.37
価格の層10年タームプレミアム(%)0.881.02
価格の層ドル指数代理118.57120.97
信用・レバレッジの層NFCI総合−0.55−0.56
信用・レバレッジの層NFCI信用−0.06−0.06
信用・レバレッジの層NFCIレバレッジ0.100.08
信用・レバレッジの層NFCI非金融レバレッジ−0.49−0.47
信用・レバレッジの層銀行の貸出態度(純引締め%)0.0(7月調査)0.0(7月調査)
配管の層SOFR−IORB(bp)+30
配管の層連銀貸出の月内最大(十億ドル)5.78.8

STLFSI4とNFCI系列は0が平均で、マイナスは平均より緩い状態です。新興国スプレッドとドル指数は代理系列です。

FCO v2.1 の内訳

項目ウェイト元データ点数
信用(HY OAS)0.253.12%7.44
ボラティリティ(VIX)0.2016.348.90
資金調達(SOFR−IORB)0.150 bp4.00
銀行(貸出態度)0.15専門判断4.00
流動性0.10専門判断5.00
介入使用量(連銀貸出)0.158.80.00
FCO1.00—5.34

信用、ボラティリティ、介入使用量は機械計算です。資金調達、銀行、流動性の3項目は専門判断で採点します。流動性は0から5に上げました。HY市場の消化不良を反映したものです。

FFI の内訳

項目ウェイト前月当月
レバレッジ・信用の質0.207374
満期の壁0.156769
バリュエーション・スプレッド圧縮0.207976
不透明資産0.207373
銀行貸出態度・バランスシート0.105757
対外脆弱性(新興国)0.156972
FFI1.0071.1071.45

レバレッジ・信用の質は73から74へ、満期の壁は67から69へ、対外脆弱性は69から72へ上がりました。バリュエーションはスプレッド拡大で79から76へ下がりました。FFIではスプレッドの圧縮が脆弱性の加点要因なので、拡大は点数を下げる方向に働きます。

社会不安と地域紛争

SURI≥60は10か国から12か国に増えました。新たに超えたのはバングラデシュ(60.75)とペルー(60.05)で、いずれも閾値すれすれです。SURI≥75は5か国のままで、ミャンマーが74.90で直下にあります。単純平均は62.67から63.79、人口加重は63.34から64.46です。人口加重がGDP加重を上回っており、人口の多い低所得国に圧力が偏っています。

今月の採点は全20か国の家計ストレスに+2、黒海産小麦と純燃料輸入に依存する13か国にさらに+1、抗議が70以上の6か国の抗議に+1、対外調達に依存する11か国の政府の脆弱性に+1、レバノンの紛争に+1としました。

RCEIは77.85から80.70に上がりました。戦闘強度、エスカレーション速度、食料・エネルギー・水の項目が上昇しています。

SURI60以上の国数の棒グラフとRCEIの折れ線グラフ
図3 SURI≥60の国数と地域紛争指数。薄い棒は国別データのない内挿値です。
20か国のSURIの横棒グラフ
図4 国別SURI。破線は60と75の閾値です。
国家計抗議政府紛争SURI前月差主な要因
スーダン9974959891.75+0.95家計ストレスが上限に接近。紛争・飢饉の構造は不変
ナイジェリア9176728582.25+1.50燃料・コメ高止まり+ドル高。重点監視を継続
パキスタン8473737877.85+1.508月の燃料抗議に続き小麦粉高止まり。対外調達コスト上昇
レバノン8662867477.60+1.25湾岸戦域の再エスカレーション(9月下旬の商船被弾)
エチオピア8656758576.10+1.05紛争と干ばつの複合
ミャンマー7945859574.90+0.70内戦継続。抗議より武力紛争が主経路
エジプト8857714768.65+1.25小麦輸入+燃料補助の財政負担。ドル高で再び圧迫
ボリビア7683723067.75+1.15燃料補助削減への抗議が継続
ケニア7678573564.50+1.505月の燃料抗議の再燃リスク。ドル高
チュニジア7859663061.25+1.25食料輸入依存+財政脆弱
バングラデシュ7461584060.75+1.0560.75で閾値超え。エネルギー輸入と停電
ペルー6675613060.05+0.9560.05で僅差の閾値超え。一過性の可能性
トルコ7446494556.20+0.90高インフレの慢性化
アルゼンチン7263562056.15+0.90緊縮と実質所得低下
ザンビア7645612555.05+1.25債務再編途上+干ばつ
スリランカ7156562555.05+1.252022年危機の再発リスク
ガーナ7149532552.70+1.25債務再編後の生活費圧力
フィリピン6141394047.40+1.05コメ価格が政治問題化
モロッコ6446402546.90+1.05干ばつによる農業減産
インドネシア5643333042.95+0.70補助金財政負担が拡大

国別SURIは公開情報に基づくモデル値です。各国の公式評価や格付けではありません。SURI=0.35家計ストレス+0.25抗議動員+0.20政府の脆弱性+0.20紛争の波及。

月SURI≥60SURI≥75単純平均人口加重GDP加重最大値データ
1月6153.1553.3847.8083.20国別実データ
8月10562.6763.3456.5290.80国別実データ
9月12563.7964.4657.5291.75国別実データ
項目前月当月
戦闘強度8587
エスカレーション速度7278
国家の脆弱性6768
食料・エネルギー・水7983
難民・越境8383
RCEI77.8580.70

連鎖の強度

SCIは78.8から82.0に上がりました。連鎖2は4.9から上限の5.0に達し、連鎖4は4.0から4.2、連鎖1は4.2から4.4です。30年分のデータで裏づけがあるのは連鎖1だけで、他は構造的な推論です。

5連鎖の月次強度のヒートマップ
図5 5連鎖の強度の推移。色が濃いほど強い連鎖です。
連鎖前月当月前月差
連鎖1 気候→農業→食料→家計→デモ4.24.4+0.2
連鎖2 地政学→エネルギー→インフレ→金利→財政4.95.0+0.1
連鎖3 高金利→財政余力→補助金削減→社会不安3.94.1+0.2
連鎖4 食料・燃料→政情不安→通貨安→輸入インフレ4.04.2+0.2
連鎖5 AI→採用減→若年所得→消費・政治2.72.8+0.1
SCI(連鎖の平均×20)78.882.0+3.2

主観と客観の比較

主観のGRCS4と、市場と統計から機械的に計算するproxy-GRCSを並べて確認します。9月は客観でも再上昇しました。パーセンタイルで見ると3〜5月(82〜88)と9月(82)に2つの山があり、6〜8月は中位(53〜58)です。主観は1月から毎月上がり続けており、この形の違いは主観の採点に上方向の偏りがある可能性を示します。

GRCS4とproxy-GRCSの折れ線グラフ
図6 主観のGRCS4と客観のproxy-GRCS。主観は専門判断、客観は市場と統計の機械計算です。
月GRCS4(主観)proxy-GRCS(客観)過去比パーセンタイル差
1月50.7760.742.5−9.9
2月57.0756.834.1+0.2
3月73.1574.181.6−0.9
4月79.1476.088.0+3.2
5月82.0174.884.4+7.2
6月83.2366.355.6+17.0
7月84.3167.257.5+17.2
8月87.0165.153.4+21.9
9月89.2874.182.4+15.2

統一値について。作成時の76.3は、Brentに世界銀行の値(116.8ドル)、GPRに速報値(146.2)、実質化に8月CPIを使っていました。過去の系列はIMFのBrent(9月は102.02ドル)と確定に近いGPR(155.9)で計算していたため、9月だけ出所が混ざっていました。全期間をIMFに統一すると74.1(82.4パーセンタイル)です。4軸のパーセンタイルは食料43.9、財政64.7、エネルギー73.1、地政学92.1です。

この結果、当初+13.0としていた差は+15.2に変わり、±15の基準を超えます。次号で採点基準を点検します。また、74.1は高圧力の目安である75の直下です。9月を高圧力月として扱う記述は、閾値の直下という留保つきで読んでください。

検証中の仮説

今月の結果から、次の仮説を検証の対象とします。これは結論ではありません。

「マクロショックは金利経路を通じて金融資産の価格には波及し始めたが、金融システムの機能には波及していない。後者は金融機関の資本と流動性の厚みによるものと考えられるが、借り手側のレバレッジと銀行の債券含み損という、価格指数に映りにくいリスクは蓄積しつつある」

仮説内容現状
H1マクロ圧力が上昇している主観で支持。客観は再上昇だが3〜5月の水準で、高圧力の閾値の近傍
H2金融には波及していない配管と信用条件では支持。価格の層は9月に初めて崩れ始めた
H3波及しない理由は金融の強固さである未決。確度は低い

判別のため、反証条件をP-16(配管の逼迫)、P-17(NFCIが0超)、P-18(STLFSI4が0超)として予測ログに加えました。P-18だけの成立は仮説と整合し、P-16も成立すれば強固さは介入に依存していたことになり、P-17が成立すれば仮説の中核を修正します。何も起きない場合は整合しますが、強固さと因果の弱さは区別できません。

2022年の利上げ開始からSVBの破綻まで約12か月でした。今後12か月を試験期間と位置づけます。詳しくはモデルの検証を参照してください。

予測ログ

予測は発行時の確率とともに記録し、期限が来たら判定します。P-16〜P-18は仮説検証のための予測です。到達型の予測は、成立した時点で確定します。P-11は後の改定で値が下がっても、公表時点で確定として扱います。

ID予測確率期限状況発行
P-01SURI≥60の国のうち3か国以上で、死者を伴う生活費・燃料関連の抗議が発生する0.652026年11月末未判定MR-2026-07
P-02FAO食料価格指数が135以上に到達する0.352026年11月末的中 9月MR-2026-07
P-03米HY OASの月末値が4.00%以上に拡大する0.202026年11月末未判定MR-2026-07
P-04FCOが30以上に上昇する(2026年9月以降はv2.1で判定)0.152026年11月末未判定MR-2026-07
P-055か国以上で食料または燃料の補助金が新規導入・拡大される0.752027年2月末未判定MR-2026-07
P-06欧州主要国(独仏伊西英)のいずれかで、GDP比0.2%以上の気候関連緊急財政措置が発表される0.552026年12月末未判定MR-2026-07
P-07食料輸出規制を新規導入する国が5か国以上になる(IFPRI)0.402027年2月末未判定MR-2026-07
P-08GRCS4が85を超える0.452026年12月末的中 8月MR-2026-07
P-09新興国2か国以上で通貨危機(3か月で対ドル20%超下落)が発生する0.402027年7月末未判定MR-2026-07
P-10欧州天然ガスが月平均20ドル/MMBtuを超える(世界銀行)0.452026年12月末的中 8月MR-2026-07
P-11FAO食料価格指数が136.0以上に到達する0.452027年1月末的中 9月MR-2026-08
P-12米HY OASの月末値が3.50%以上に拡大する0.302027年2月末未判定。9月末3.12%MR-2026-08
P-13ホルムズ海峡のタンカー通航が月平均20隻/日以上に回復する0.252027年2月末未判定。約13隻/日MR-2026-08
P-14SURI≥75の国が4か国以上の状態が3か月連続する0.502026年12月末未判定。2か月目MR-2026-08
P-15欧州天然ガスが月平均25.0ドル/MMBtuを超える(世界銀行)0.402027年2月末的中 9月MR-2026-08
P-16SOFR−IORBの月末値が+10bp以上、または連銀貸出の月内最大が500億ドル以上になる0.152027年3月末未判定MR-2026-09
P-17シカゴ連銀NFCIの週次値が0を上回る0.082027年3月末未判定MR-2026-09
P-18STLFSI4の週次値が0を上回る0.402027年3月末未判定MR-2026-09
P-19FAO食料価格指数が140.0以上に到達する0.352027年2月末未判定MR-2026-09
P-20SURI≥60の国が13か国以上になる0.402026年12月末未判定MR-2026-09

判定済みは5件で、すべて的中です。平均Brierスコアは0.338で、コイン投げに相当する0.25より悪い水準です。的中でも低い確率しか置かなかった予測は点が悪くなります。未達の予測は期限が来るまで0として計上されないため、この時点の的中率は実力より高く見えます。

来月の注視項目

9月は5条件のうち③だけが成立しました。FCOの上昇は1か月目で、水準も30を大きく下回ります。連鎖1は4.4で4.5に接近しています。

条件当月の値成立
① FFIが75を超えて維持される71.45未成立
② FCOが2か月連続で上昇し30を超える5.34(1か月連続の上昇)未成立
③ GRCS4が85を超える89.28成立
④ SURI≥60が12か国を超える12未成立
⑤ 連鎖1が4.5に達する4.4未成立

2つ以上が同時に成立したら、レジーム転換を検討します。

9月から金利経路の監視を加えました。SOFR−IORB、NFCI総合、連銀貸出の3つです。11月下旬に公表されるFDICの第3四半期統計で、銀行の債券含み損も確認します。

データ改定の記録

出典と限界

この号の限界

← 前の号 MR-2026-08 2026年8月 確定版 マクロリスク・モニター 4/4 月次モニタリング結果の一覧へ