小説「SaaSの死 - AIエージェントカンパニー」 全20章+変革の視点20本
at.AIの原則は、標語として作られたものではありません。二〇二六年に経営危機へ陥った一社の物流会社が、採算を切り、業務を組み替え、AIへ作業を渡し、資本の使い道を問われ、やがて物理世界と社会へ出ていくまでの十年を書いた小説と、その各章から一般化した解説によって出来ています。
小説20章は、原則が生まれた現場です。変革の視点20本が、原則そのものです。このページは、その四十本を主題から引くための索引です。
手帳の十二行
主人公が、会社が問題を一つ越えるたびに書き加えてきた言葉。順に積み上がったこと自体に意味があるため、章の順に並べています。
- 採算を切る。
- 間接費を削る。
- 時間を買う。
- 戻さない。
- 人を配線にしない。
- 作業を渡す。責任は渡さない。
- 値段と価値を、混同しない。
- データを貯めるな。流れをつくれ。
- 境界を、決めつけない。
- 人と機械を分けるな。役割を分けろ。
- 未来を当てるな。選択肢を増やせ。
- 仕事で会社を定義するな。生み出す価値で定義する。
- 十三行目は、まだ書かれていない。
最終章で、主人公はペンを持ち、手を止めます。「今日は書かないんですか」と聞かれ、「まだ分からないから」と答える。原則は、完結した体系ではありません。
七つの原則
四十本を通して繰り返されている原則は、数えるほどしかありません。同じ原則が、対象を変えて何度も適用されています。それぞれの原則の下に、どの局面でどう働いたかを並べました。
1選別する
残したいものと、残す価値のあるものは違う。
- 1.1数字 ── 見たくない数字ほど、粒度を粗くして隠される第2章/視点2
- 1.2業務分析 ── As-Is分析の目的は、再現ではなく選別第3章/視点3
- 1.3顧客 ── 「重要だから残す」ではなく「この条件を満たせるなら残す」図第5章/視点5
- 1.4業務 ── 価値を生む仕事と、つないでいるだけの仕事を分ける図第6章/視点6
- 1.5設計 ── 現行を写さず、標準の型へ会社を寄せる第9章/視点9
- 1.6導入 ── 今日流すもの、今日捨てるもの第10章/視点10
- 1.7AI権限 ── 何をAIに渡し、何を渡さないか図第13章/視点13
- 1.8競争と協調 ── どこまでを自社に置き、どこからを社会と共有するか第18章/視点18
2人を配線にしない
必要なのは、大きな傘ではなく配線である。
- 2.1断絶の発見 ── データ基盤はできた。だが、人がその間をつないでいた第3章/視点3
- 2.2横断する人 ── 外部参謀とは、切れてしまった回路をつなぎ直す人第4章/視点4
- 2.3つなぎ仕事 ── 最初に減るのは、人ではなくつなぎ仕事第6章/視点6
- 2.4提案の見分け方 ── 流れそのものを変えるのか、今の流れに課金を重ねるだけなのか第8章/視点8
- 2.5四層の構造 ── 主役は流れ。SaaSは部品図第9章/視点9
- 2.6到達点 ── 人の価値は、つなぐことから、意味を与えることへ第12章/視点12
- 2.7社会へ ── 国も、人が配線になっている第18章/視点18
3悪人はいない。構造がある
誰も間違えていないのに、会社は壊れる。
- 3.1真面目な会社ほど、静かに痩せていく第2章/視点2
- 3.2丁寧に進めるほど、現行の複雑さを写し取ってしまう第3章/視点3
- 3.3分業がきれいなほど、すき間に問題が落ちる第4章/視点4
- 3.4部分的に正しい提案ほど、危険である第8章/視点8
- 3.5死んでいない古い運用を、AIは律儀に拾う第10章/視点10
- 3.6「念のため」は、怠慢ではなく責任感から生まれる第11章/視点11
- 3.7AIが暴走したのではない。会社が決めていなかった第13章/視点13
- 3.8全員が正しく振る舞っても、現実は詰まる第17章/視点17
4抵抗は、本物である信号
摩擦が起きない改革のほうが危うい。本体に触れていない可能性が高いからである。
- 4.1抵抗の二種類 ── 現実に根ざした抵抗と、構造を変えないための抵抗図第7章/視点7
- 4.2社外の抵抗 ── 既存ベンダーの囲い込みが始まる第8章/視点8
- 4.3導入現場 ── 導入が荒れるのは、変革が本物だから第10章/視点10
5戻さない
選べると、人は慣れた方へ戻る。
- 5.1標準を先に流す ── 全部きれいにしてから流そうとしない第10章/視点10
- 5.2定着とは、新しい型以外では回りにくくすること第11章/視点11
- 5.3評価制度まで変えなければ、例外は必ず復活する第11章/視点11
6作業を渡す。責任は渡さない
委任の範囲を決めることは、技術の仕事ではなく経営の仕事である。
- 6.1責任の所在 ── 曖昧なままだと、人は「念のため」を残す第11章/視点11
- 6.2AIへの権限 ── Level 0 から 4 を、業務ごとに決める図第13章/視点13
- 6.3事実と推定 ── 観測された事実/AIが推定したもの/人間が保証するもの第16章/視点16
- 6.4物理世界 ── 考えるAIと、機械を動かす制御系は分ける図第17章/視点17
- 6.5社会 ── 分からないと言えることも、信頼性の一部第18章/視点18
7値段と価値を、混同しない
ただし「価値」という言葉を、経営の甘えにも使わない。
- 7.1資本配分 ── ROICは、投じ続ける理由を説明させるための数字第14章/視点14
- 7.2データ ── 「データが取れるから」を、赤字の言い訳にしない第15章/視点15
- 7.3新技術投資 ── 技術の凄さではなく、経営で採点する図第16章/視点16
- 7.4価格モデル ── 投入した量ではなく、生み出した価値で課金する第19章/視点19
- 7.5会社の定義 ── 仕事で会社を定義するな。生み出す価値で定義する第19章/視点19
七つの枠組み
物語の中で、実際にホワイトボードや表として書かれたものです。そのまま自社に持ち帰って使えます。
- 継続条件 A〜D ── 顧客を切るか切らないかではなく、残す条件を定義する
第5章 選別 - 業務棚卸しの七列 ── 価値を生む仕事と、つないでいるだけの仕事を分ける
第6章 半分で足りる - 役割を動かす順番 ── 消える仕事、残る仕事、自然減・再配置・再教育、そして残る痛み
第7章 社内戦争 - 会社の流れを作る四層 ── SaaSが事実を持ち、APIがつなぎ、BIが見せ、AIが横断する
第9章 設計図 - AIへの権限レベル 0〜4 ── どの業務を、どこまでAIに委ねるか
第13章 AIエージェント - 新技術投資の評価表 ── 十三項目。最後の一つは「三年後に撤退判断できるか」
第16章 緊急会議 - Physical AI の四段階 ── 計画、仮想検証、制約確認、実行。人間はいつでも止められる
第17章 倉庫
まだ答えを持っていないこと
AIが作業をする会社で、人はどう育つのか。
第13章で、人事担当役員が主人公に問います。かつて新人は見積を作り、間違えて怒られ、原価の意味を覚えた。請求書も作った。契約書も読んだ。顧客からも叱られた。倉庫にも行った。その入口の仕事を、AIが引き受けるようになったとき。
AIが調べて、AIが計算して、AIが案を作る。人間は「承認」を押す。その人は、十年後に何を知っているんでしょう。
主人公は答えられません。この問いは第16章でも戻ってきて、最終章まで解決されないまま残ります。
私たちも、答えを持っていません。生産性を上げることを事業にしている以上、ここから目を逸らすべきではないと考えています。視点13には、いま考えられる範囲での対処を書いています。
どこから読むか
- はじめから読む
物流会社が経営危機に陥るところから。
第1章 封鎖 - AIエージェントの権限設計を知りたい
AIが規程通りに大口顧客の出荷を止めた日。AIは正しく動いていた。
第13章 AIエージェント - 現場・物理世界へのAI導入を知りたい
予定外に置かれたパレット一枚で、最適化された物流が止まりかけた。
第17章 倉庫 - 価格モデルとビジネスモデルを考えたい
顧客を効率化すると、自社の売上が減る。その矛盾をどうするか。
第19章 何を売る会社か/視点19
全二十章
- 第1章 封鎖 視点
- 第2章 売上はある、利益がない 視点
- 第3章 改革アレルギー 視点
- 第4章 外部参謀 視点
- 第5章 選別 視点
- 第6章 半分で足りる 視点
- 第7章 社内戦争 視点
- 第8章 囲い込み 視点
- 第9章 設計図 視点
- 第10章 導入 視点
- 第11章 定着 視点
- 第12章 SaaSの死 視点
- 第13章 AIエージェント 視点
- 第14章 値札 視点
- 第15章 流れ - データの複利 視点
- 第16章 緊急会議 視点
- 第17章 倉庫 視点
- 第18章 日本 視点
- 第19章 何を売る会社か 視点
- 第20章 2035年 視点
この索引は、四十本を主題から引くためのものです。原則の数と名前は、今後の実践に応じて見直していきます。
